~相談員コラム~
最後の願いに寄り添うために
〇人生最後の入浴
ある有老協登録ホームの介護職員から伺った話。
担当していた80代の女性は、食欲も徐々に細り水分だけを欲しがるようになりました。また、衰弱のせいか、たまに発熱の症状がでることもあります。
そんなある日、女性が「お風呂に入りたい」と訴えます。抵抗力もなくなりつつあるので、最近は清拭により清潔を保っていました。果たして入浴したいとの要望に応えてもよいのか。発熱など症状が悪化する懸念はないのか。不安はありましたが、担当者は女性にとっての「人生最後の入浴」になるかもしれないと考え、併設するクリニックの医師に相談の上、女性の体調が落ち着いているタイミングで介助浴を実施します。久々の入浴に女性はとても穏やかな表情を浮かべ、「ありがとう。とてもすっきりしたわ」とほほ笑んでくれました。幸い、その後体調の変化が生じることなく、女性は2週間後、静かに息を引き取りました。
〇デス・カンファレンス
ご逝去後、介護、看護、生活支援のスタッフが集まり、看取りの対応の振り返り(デス・カンファレンス)を行います。入居者の気持ちに寄り添えたか、「こうすればよかった」と思うことはないか。様々な意見、反省点を出し合い、よりご本人の気持ちに寄り添う介護の実践につなげます。また、このカンファレンスは、看取りに携わった職員の精神面のケアの意味もあります。
〇入居者の思いに寄り添うために
老人ホームの現場では、ちょっとした介護時のミスなどから入居者にけがを負わせたり、体調を悪化させる事故が発生します。そうした場合、ホームや職員に対し責任が追及されることもあります。今回のケースにおいても同様のリスクがありました。それでも、入居者の最後の願いに応えるために、細心の注意を払いつつ対応しようとする担当者がいます。こうした職員の取り組みに、私はエールを送りたいと強く思います。
(公社)全国有料老人ホーム協会 参与 倉田 久